Aoi's Freespace

2005年02月17日

アレキサンダー

酷評を受けまくっている噂のアレキサンダーを見てまいりました。

オリバーストーン監督ってことで、娯楽性はあんまり期待していなかったので、この点はさほど気にならなかったんですけど、なんと言うか、監督の独善的な部分が見え隠れして、ちょっと辟易したかなって印象です。

「アレキサンドロス大王って実はホモだったんですよ。グヘヘ」とか「今も昔も戦争って血が流れまくって悲惨なものなんですよ。嫌ねぇ」とか「結局、戦争で生まれるものなんて無いんですよ。むなしい」みたいな主張がアリアリと見えてイヤーンな感じ。

ってかね、劇中のアリストテレス先生もおっしゃってましたけど、最高の愛とは純粋な精神的(非生産的)な愛だということなんですよ。アリストテレスの師匠だったプラトンもそう言ってるでしょう。なんと言ってもプラトニックラブというぐらいですから。

ですから、ホモセクシュアルは当時のギリシャ文化ではごく自然なことで、わざわざ劇中で表現することじゃありません。作品を見る限りでは、マザコンの大王が女に興味を持てなくって仕方なしに男色に走ったようにしか見えません。

もちろん、監督もプラトニックを知らない訳では無いでしょうから、これは完全に表現の失敗でしょう。

んで、戦争に関して。なんか反戦意識の見え隠れする描写なんですけれど、アリストテレスを出しているぐらいですから、弁証法や因果関係についてもう少し勉強されてはいかがかと。

ただ流血シーンを出して、むなしく死んでいく兵隊を描けば、それで反戦メッセージが伝わるかというと否と言いたい。厭戦と反戦では意味が違うと思うし、オリバーストーンの訴える映像は厭戦にしか見えない。これはプラトーンでも感じたことですけれど。

次に個々のシーンの話。

バビロニア入城のシーン。バビロニアにバベルの塔があったのは洒落で済みますが(実際、あの手の形状の塔は各地に建設されていたらしい)、当時のペルシャにペルシャ猫はいません。

当時のペルシャにいた猫は、強いて言えばアンゴラ猫かしら?長毛ですけど、もっとスラッとした体型の猫です。劇中で出てきたホワイトのコビーな体型の長毛種の猫ができたのは、20世紀に入ってからです。しかもペルシャ猫の原産地はイギリス(アメリカという意見もあり)です。しっかりしてください、監督。

戦争シーンですけれど、マケドニア王の映画を撮るんですから、戦争描写無しではどうしようもないことはわかりますよね?プラトーンみたいに、どこかの誰かが勝手に始めた戦争に否応無く巻き込まれていく訳じゃありませんよね?

ということは、一国の王(奴隷制時代の王です。資本主義時代の大統領と同じ考えではありません)としての、戦略戦術が描けなければ、ベトナム戦争を描いても、ガウガメラの戦いを描いても同じ描写にしかなりませんよ、と。

アレキサンドロス大王が、その若さで、またその暴虐性にも関わらず、王として(当時の王の選ばれ方をご存知ですか?世襲制や選挙制じゃありませんよ)反目が多かったにせよ絶大な支持を受け、インドまで遠征できたかを考えてみてください。

そんなわけで、戦闘シーンは、しっかり描いてしっかり撮りましょう。良い感じに舞台設定できているのにもったいないです。長槍と方陣と騎馬兵の組み合わせを考えるユニークな戦術性と、大胆な戦闘技術と併せ持った人物(一の谷合戦や壇ノ浦合戦で有名の義経みたいな大胆な戦闘をしたと聞きます)だったということでしょう。強いものは無条件に信頼を集める、そんな時代です。

劇中でも、少し触れられているような気がしないでもありませんけれど、無茶をする王様程度にしか描かれていない(ゾウに単騎で突っ込むアレキサンダーとか)のが残念です。

さて、戦争を知るということは、歴史を知ることでもあります。歴史を正しく知るためには、戦争を正しく知る必要があるでしょう。

重装歩兵部隊とは何か、方陣を組むことにどのような意味があるのか、ペルシャ軍が突撃の前に放った無数の矢は戦局をどのように左右するのか、騎兵の意味、敵将が目の前なのにも関わらず、補給部隊が攻められていたら転進せざるを得ないこと、戦車(というか、チャリオット)やゾウの意味などなど。また、各地に作った中継補給基地としてのアレキサンドリア(水や食料だけでなく奴隷も補給した)などを克明に無意味な演出(流血シーンや乱雑なカメラワークなど)を使わずにしっかりと描けば、クドクドと能書きを垂れなくても、おのずと戦争の本質は理解できるかと思います。

率直なファーストインプレッションとしては、ダレイオス大王がカッコ良い感じ。ペルシャ軍主体の映画があったら見てみたいと思った。あと、フィリッポス大王への復讐劇なんじゃないかという見方もあり。この辺、ギリシャ神話とか考察してみないと微妙。

そんなわけで、3時間近い作品なんですけれど、スケールが壮大なので飽きることはなかったです。でも、消化不良な感は否めないですね。見て損をすることは無いと思いますけど。

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